STORY
今日も電車に揺られながら30分かけて出勤している。
朝の満員電車にもだいぶ慣れてきた。
新宿をすぎると一気に人が減り、間隔にもゆとりができて気がゆるんだ。
電車が地下を通っている。
ふと窓をみてしまった。
そこには自分というスーツを着た男性が写っていた。
最近ではLGBTQの存在が認知されてきているが
私はそれのTにあたるトランスジェンダー。
男性の体で生まれたが、性自認は女性だ。
本当の仲の良い友達数人が知っているけれど
職場の人にはまだ誰にも公表していない。
今後も公表する事はしないつもりでいる。
働きにくくなってしまったり、差別されるのがとても怖い。
でも時々、公表したら楽になれるのかな?と思うときもある。
でもそんな勇気私にはとても無い・・。
先日の休日に、会社の先輩と親睦会の出し物の景品を一緒に買いに行くことになった。
先輩は2歳年上だ。
黒髪ショートカットで、大ぶりピアスが似合うさばさばした性格のとても素敵な女性。
先輩はいつもカッコよく男女問わず人気がある。
いつもリョウちゃんと呼んでとても可愛がってくれている。
仕事あがりに何度か飲みに行ったことがあったが、プライベートで会うのは今回が初めてだった。
先輩と無事合流をして、
コーヒーショップ・石鹸屋さん・金券ショップなどいろんなお店をまわった。
一通り買い終わり、時計を見たらもう18時を回っていた。
2人ともお腹がすいてきたので一緒に晩ご飯を食べに行くことになった。
「ご飯の前に1件だけお店によってもいい?私の好きなお店なの」
私は先輩が好きなお店ならぜひと快く返事をした。
どんなお店なのだろうか?
着いた先は【Je suis】という名前のお店だった。
先輩は常連らしく、お店に着くなりすぐに店員さんとお話をしていた。
その間お店を見渡していると、どうやら下着と水着を販売しているお店のようだ。
Je suis=I am 私らしさってなんだろう?あなたらしさってなんだろう |
という言葉が目に飛び込んできた。
言葉に少しドキッとした。
先輩は店員さんと話しながらレジにいた。何か購入したみたいだ。
「お待たせー!!」
と先輩が戻ってきてお店を出た。
「さっきのお店、LGBTQの方たちに向けた商品の取り扱いしてるんだよ」
と言った。
一瞬心臓が止まった。
私がトランスジェンダーなのがバレてしまった!?
顔に出ていないか心配だったが
先輩はLGBTQの発言を特に気にしていない様子でご飯屋さんに向かった。
ご飯屋さんに着きビールで乾杯をした。
最初は親睦会の段取りの話。
3杯目あたりから仕事内容・人間関係
とお酒が進むにつれ話す内容が濃くなっていった。
そして一瞬。本当に一瞬だけピリッとした空気が流れた。
私はなんとなくくるなと思った。
「ちょっと聞きたいことあるんだけどいい」
と先輩がいった。
私のカンは良くあたる。
とうとうこの時がきたか・・・。
私は血の気が引いた。
そして先輩は
「実は・・・私レズビアンなの。気持ち悪いと思う?」
ん???
自分の想像のはるか斜め上をいった質問内容で一瞬時が止まった。
私は慌てて気持ち悪くないと伝えた。
「急にこんな話してごめんね!びっくりさせちゃったよね。でもなんとなくリョウちゃんには話したいと思った。」
と焦りながらここまでの経緯を一生懸命話してくれた。
自分がレズビアンだと気付いたのは中学1年生の時。
最初は同性を好きな自分自身を受け入れられなかった事。
好きな人に好きと言えないもどかしさ。
女子会での恋愛の話についていけないこと。
そして今実はパートナーがいるという事。
いろんな事を話してくれた。
悩みの内容はまた少し違ってはくるがとても先輩の苦しみは分かる。
人に公表する怖さ。
自分自身を受け入れる大変さ。
考えれば考えるほど自分と重なる。
私からみると先輩は自信に溢れていて、みんなに好かれているしまさか自分と同じような悩みを抱えているなんて信じられなかった。
「私先輩みたいにかっこいい人になりたいです!どうしたらなれますか!?」
急に突拍子もない質問を私はしていまった。
先輩はびっくりした顔した後すぐに微笑み今の自分になれた話をしてくれた。
「私も3年前までは自分に自信がなくて今ほど明るい人ではなかったの。周りの目ばかり気になって自分らしさを出すのが苦手だったよ。
さっきJe suisっていうお店行ったでしょう?そこのお店が実はきっかけなんだよね。」
と話をしてくれた。
お店がきっかけなんてとても意外だった。
「Je suisはたまたま立ち寄ったお店で、店員さんに接客してもった時にLGBTQの話になってね、LGBTQの方はとても身近にいるよって聞いたんだ。その時自分だけじゃないんだな。と少しほっとしたんだよね。
それで商品の下着を買ってみたんだけど、なんだかお守り?みたいな。なんて言ったらいいか上手く説明できないんだけど、私という人間を受け入れてくれてる?みたいな感じで安心するの。
常連になると他の常連さんとも仲良くなっていって、だんだんこれも私の個性なんだって受け止めれるようになっていったの。それで気がついたら今の私になってたっていう感じです。笑」
先輩の話を聞いたら周りの人というより結局は自分自身を認める事が大事なんだなと気付いた。
「先輩。実は私、トランスジェンダーなんです 。」
ついに公表してしまった。
先輩は
「ありがとう。話してくれて。」
とにっこり微笑んだ。
実は先輩は前から勘づいていたようだった。
彼女はできないのか?と公の場で上司に聞かれていた時の反応で分かったらしい。
今まで自分から公表した際に友達ですら気付かったのにすごい洞察力。さすがだなと思ってしまった。
私は先輩を先輩らしくしたJe suisというお店にすごく興味が湧いてきた。
「先輩。今度私と一緒にJe suisに行ってくれませんか?」
と私は言った。
先輩は
「ぜひ!!」
と満面の笑みで返事をしてくれた。
出勤の時にふと電車の窓に映るサラリーマンの男性の姿の自分が、近い将来違う見え方になっているかもしれない。